レッド・ツェッペリンに最盛期というものはない。いずれの時代も、それぞれに比肩し難い魅力があり、初期、中期、後期のいずれも、まるで異なるバンドの様にその時代特有のアプローチを楽曲に対して行なっており、それらはどれが優れているといったレベルではなく併存しているのである。そして1973年といって私たちが想起するのは、間違いなく映画『永遠の詩』であることに異論はあるまい。その残した足跡に比してツェッペリンの映像作品は多くはない。もちろん写真は数多く残されているので、各時代のヴィジュアル的な変遷を辿る事は出来るが、動き、また演奏しているツェッペリンとしては映画『永遠の詩』にとどめを刺す。
痩身のジミーがステージ狭しとギターを抱えて動き回り、ギリシャ彫刻のような裸体を露わにした衣装のロバートが金髪を靡かせてシャウトする。ボンゾは野獣の様に縦横無尽に叩きまくり、ジョンジーは黙々とベースラインを奏でる。このようなツェッペリンのイメージは、まごうことなく映画『永遠の詩』によって形成されたものである。そしてまた、構成が純粋なライヴ映像のみでないことから批判もあろうが、冒頭でツェッペリンに絶頂期というものはないと書いたが、演奏の完成度という観点では1973年が一つの頂点と言えるのではないか。
ツェッペリンのライヴは手抜きなしで大音量で全力で行なわれる・・・これは当時新聞記事でレポートされた際の言葉である。直接的でありながら実に的を射た表現であり、噂が肥大化していたツェッペリンのライヴが、期待を上回るパフォーマンスを見せてくれたのが1973年全米ツアーであった。この頃になると多分にショウアップされ、また構成は画一化され、セットリストにも大きな変動はなくなり、全米各地をジェットで移動する、いわゆる産業ロックの走りであるともいえる。弊害もあろうが、それ故にひとつひとつのコンサートの完成度は高いものとなっている。この時期のツェッペリンのステージはまさに完璧なもので、メンバーの出来不出来といった波はあるものの、どの公演を聴いてもその圧巻なパフォーマンスは同時期の他のバンドを圧倒している。70年代はツェッペリンの時代であった。
それにしても1973年のセットリストは完璧な構成である。オープニングから一気にスパークする「ロックンロール」。ガガーン、ガガンガガーンというリフがたまらなくカッコいい。そして息もつかせず「祭典の日」にメドレーで繋がる。このようにオープニングをメドレーで畳みかけるのはツェッペリンのライヴの定番となっている。「ミスティ・マウンテン・ホップ」と「貴方を愛しつづけて」もメドレーで演奏されている。特に後者は“ど”ブルースで、ハードロックだけではない音楽性の幅を見せつけてくれる。ヴォーカルにエフェクトをかけ、まるでゼラチンの海を漂う雰囲気の「ノー・クォーター」、激しいオーヴァーチュアー「永遠の詩」に続き、静かで美しい「レイン・ソング」。緩急織り交ぜて聴くものを飽きさせない。そして中盤のハイライト「幻惑されて」である。ここで聴くことの出来るドラマチックな展開は同曲の完成形と見てよいであろう。約30分にも渡る長大な演奏でありながら贅肉が一切なく、研ぎ澄まされ、また綿密に練られた構成を保ちつつも、感性によって演奏をする余地を残した完璧なものである。そしてロバートのヴォーカルも楽器のひとつとしてギターと呼応し、変幻自在な「音色」を奏でているといえる。途中にバイオリン・ボウのパフォーマンスあり、転調しスリリングな場面あり、そして最後にリプライズ的に基本メロディに戻るなど、通して聴くとまるでひとつの物語を読破したような充実感に溢れる。「モビーディック」はボンゾ以外のメンバーの休憩時間である。すなわちボンゾは休憩なくステージであのドラミングをしていることになり、改めてボンゾの人間離れしたパワーに圧倒される。
「ハートブレーカー」は続く「胸いっぱいの愛を」とメドレーになっており、まさにコンサートは「なだれ込む」と言った表現がぴたりとくる佳境を迎える。あまりに有名な重いリフが会場の歓声をかき消すくらい大音量で奏でられる。テルミンの不気味な響き、途中挿入されるメドレーの数々。そして様々な展開を経た後に再びリフに戻って曲が締めくくられる。アンコールは「コミュニケーション・ブレイクダウン」である。まさに完璧なセットリスト、曲順も含め一切の隙がないツェッペリンを魅力が凝縮されたかのようなコンサートである。
さて本作に収録されているのは、この1973年北米ツアーより、5月14日ニューオリンズ公演である。1973年北米ツアーは6月初旬に前半が、約1ケ月のインターバルを置き、7月から後半が始まる。ニューオリンズは前半の、それも早い時期のコンサートで全体では36公演中の7公演目に当たる。このニューオリンズ公演は古くからサウンドボード音源が流出している。しかし「ロックンロール」の途中からしか音源がなく、それ以外でも欠落が随所に見られるものであった。そしてこれが致命的な点であるが、サウンドボードでありながら音質が悪いのである。サウンドボードとはいえ、臨場感のない平坦な音で、かつレンジが狭く全体的にくぐもっており、軽い音色のサウンドボードであった。一方で同日にはオーディエンス音源も存在し、こちらは同時期他公演のオーディエンスと比べても最高の部類のひとつであり、非常に素晴らしい音質で収録されている。臨場感はもちろんのこと、コンサート全体を包む当日の空気がバランス良く収録されており、圧倒的にオーディエンス音源の方に軍配が上がるであろう。よって本作は、この高音質オーディエンス音源をメインに、欠落部分をサウンドボード音源で補完することにより、ニューオリンズ公演を完全収録するという手法で構成されている。オーディエンス音源における具体的な欠落部分は「レイン・ソング」と「モビーディック」の一部である。両曲とも違和感のないように編集が施されているので、安定した音質で通して聴くことができる。
Wendyレーベルの最新作は1973年5月14日ニューオリンズ公演を、高音質オーディエンス音源をサウンドボード音源で補完することによる完全収録。メインとなるオーディエンス音源は同時期の他公演と比べても最高のもののひとちで、サウンドボード音源をも凌駕する高音質なもの。素晴らしい完璧なツェッペリンのドラマチックなライヴを臨場感と共に完全再現できるタイトルである。美しいピクチャー・ディスク仕様の永久保存がっちりプレス盤。日本語帯付。
MUNICIPAL AUDITORIUM, NEW ORLEANS, LOUISIANA, U.S.A. May 14, 1973
DISC ONE
01. Introduction
02. Rock And Roll
03. Celebration Day
04. Black Dog
05. Over The Hills And Far Away
06. Misty Mountain Hop
07. Since I've Been Loving You
08. No Quarter
09. The Song Remains the Same
10. The Rain Song
DISC TWO
01. Dazed And Confused
02. Stairway To Heaven
03. Moby Dick
DISC THREE
01. Heartbreaker
02. Whole Lotta Love
03. Communication Breakdown