ツェッペリンの1977年のUSツアーは歴史的に最後のアメリカン・ツアーとなった。長らくバンドを支えてきたアメリカのファンが実見した最後のツェッペリンの演奏であった。このツアーは3つのパートに別れ、2月末から3月半ばまでのファースト・レグ、4月1日から6月半ばまでのセカンド・レグ、そして7月17日から8月13日フィラデルフィアまでのサード・レグである。この内サード・レグはわずか10公演のみで打ち切られている。本来は更に多くのスケジュールが組まれていたが、プラントの息子の不慮の死を受けて中断されてしまったからである。それでもトータルで44公演という大規模なツアーで会った事は間違いない。
このようなツアーを行なうに当たってピーター・グラントの意思が大きく影響していたと思われる。グラントは様々な毀誉褒貶が渦巻く中でツェッペリンを70年代で最大のバンドであると知らしめる必要があると考え、このような長期に渡るツアーを計画したと伝えられる。ツアーの最初からプラントが喉の炎症を訴え日程が変更となり、前述のように最後はプラントの息子の死でキャンセルで終わるなど、波乱のツアーではあったが、それでもこのツアーは名盤『プレゼンス』の楽曲を初めてステージで採り上げ、それまでとはセットリストを大幅に変更され、また数々の名演を生んだツアーとして歴史に刻まれている。この後のツェッペリンは1979年に4公演、そして1980年に短期欧州ツアーを行なっているが、ついぞかつての輝きを放っていたとは言い難く、この1977年USツアーこそが、ツェッペリンたらしめる最後の雄姿であったかもしれない。
このツアーを代表する音源としては、まず筆頭に1977年4月27日クリーブランドが挙げられる(Wendyレーベル『DESTROYER』)。サウンドボードで収録されたその音質は古くから定番として君臨してきた。1977年6月21日(Wendyレーベル『LISTEN TO THIS EDDIE』)、 6月23日(Wendyレーベル『FOR BADGEHOLDERS ONLY』)、6月25日(Wendyレーベル『SUNSET BOULVARD』)、6月27日(Wendyレーベル『FULL IMPERIAL COLLAPSE』)など一連のロサンゼルス連続公演、 その他マジソン・スクエア・ガーデン連続公演(Wendyレーベル『RELIC FROM A DIFFERENT AGE』)、そしてサウンドボードの7月17日シアトル公演(Wendyレーベル『YOUR KINGDOM COME SEATTLE』)など、高音質な音源が数多く残されている。そして本作1977年5月18日アラバマ州バーミングハム公演もまた、そのような一連の名盤に列挙されるひとつとなるのではないかと思う。
セカンド・レグの半ばに位置するこのバーミングハム公演は、2種類のオーディエンス・ソースがある事が確認されている。しかし既発タイトルに恵まれているとは言い難く、個人メイドの物を除きプレス盤では10数年前にソース1と2がそれぞれ1タイトルあるのみである。その理由として考えられるのはソース1が幾分遠目の音でヒスノイズが強いものであったこと、ソース2もまた音質が良くない事で、それまで敬遠されていたのではないかと思われる。しかし本作はソース1をロウ・ジェネレーションのテープを使用し、それをメインにソース2で補完する事で、既発盤を凌駕するものとなっている。
【音質について】
ソース1に関して既発盤はジェネレーション落ちが著しく、ダビングに伴うヒスノイズが終始シャーッと入っていた事と、最大の欠点は10数年前のイコライジングがもてはやされた時代の産物で中音域が極端に強調されていた点である。音を言葉で表現しづらいが、脳幹を直撃するような不快なもので、スピーカーでならともかく、ヘッドフォンでは聴けないようなものであった。もちろんあの時代はそれで良しとされていたのだろうが、その反動もあってナチュラルさに価値を見出す昨今の風潮においては時代錯誤な感は否めない。本作はジェネレーション不明ながら明らかに若いテープを使用しており、過度に中音域を強めることなく、なるべく素材を活かした音作りで耳に優しいものとなっている。本来こうあるべきものだという音に仕上がっている。また特質すべき事としてジェネレーションの若さに由来してヒスノイズがほとんどないという点を挙げておきたい。全体的にホール感があるヴォーカルにエコーがかった音で、近距離とは言わないが、うるさい観客もおらず、非常にきれいに録音されているのがわかる。本作によってこのバーミングハム公演の評価が変わるのではないかと期待している。
また補完に使用されているソース2は、音質的にはソース1に比べ落ちる事は否めない。こちらはマスターに起因するヒスを除去しソース1になるべく音像が近くなるように調整が施されているが、あくまで補完ソースということでご容赦願いたい。しかしこのソース2にしか含まれていない部分も多く内容的には重要なものである。
【内容について】
まずイントロの司会者の挨拶から開演前のざわめきはソース2からの収録となっている。ソース1はかなり優秀な音源でカットは非常に少なく最後の「ロックンロール」まできちんと収録されているのだが、それでも数か所の瑕疵がある。まず「IN MY TIME OF DYING」のエンディング部分、「YOU SHOOK ME」の一節を歌うわずか10秒程度であるが欠落している。わずか10秒程度であるが、音楽要素の10秒は実際に聴いているとかなり長く感じるはずである。本作ではこの部分をソース2で補完することで完全収録としている。「NO QUARTER」は既発盤ではもう少しというところでフェイドアウトしてしまうが、こちらもソース2で補完しエンディングの余韻まで完全収録となっている。細かい点を挙げれば「GOING TO CALIFORNIA」の後のプラントによるMCや、続く「BLACK COUNTRY WOMAN」の欠落していたイントロもソース1では欠落しており、ソース2を使用。そして普通のファンにとってはあまり重要ではないかもしれないが、「MOBY DICK」の途中にあった約30秒の欠落、同じくあまり重要な点ではないかもしれないが、アキレスの前のギターソロはソース1に1分以上の欠落があり、これもまたソース2で完全収録となるよう補完されている。そして最大の難所はその「Achilles Last Stand」である。途中で25秒程度の大きな欠落がソース1に存在する。これもまたソース2で補完することで、初めて完全収録を実現している。その他細かい点ではあり音楽部分ではないが、「天国への階段」と「Rock And Roll」を繋ぐオーディエンス・アプラウスや、コンサート終演後のプラントのMCも本作にはきちんと収録されている。
【本作『CRIMSON TIDE』】
Wendyレーベルの最新作は、1977年5月18日アラバマ州バーミングハム公演である。2つの現存するソースを使用。ソース1は従来のものよりもジェネレーションが若いソースを使用し、それをソース2で補完し、このコンサートを初めて完全収録としている。 既発盤をフェザーン回廊の彼方へ一蹴する、美しいピクチャー・ディスク仕様の永久保存がっちりプレス盤。
JEFFERSON MEMORIAL COLISEUM, BIRMINGHAM ALABAMA U.S.A. May 18, 1977
DISC ONE
01. Introduction
02. The Song Remains The Same
03. Sick Again
04. Nobody's Fault But Mine
05. In My Time Of Dying
06. Since I've Been Loving You
07. No Quarter
DISC TWO
01. Ten Years Gone
02. The Battle Of Everymore
03. Going To California
04. Black Country Woman
05. Bron-Y-Aur Stomp
06. White Summer - Black Mountain Side
07. Kashmir
08. Moby Dick
DISC THREE
01. Guitar Solo
02. Achilles Last Stand
03. Stairway To Heaven
04. Rock And Roll