ポールも年齢を重ね、自分のキャリアの総決算に入ったかのような精力的な活動を続けている。毎年のように行なうツアーはもちろんの事、平行して過去の自分のアルバムに未発表音源や映像を加えて再リリースを行なっている。特にウイングス時代に関しては、とかく76年のワールドツアー期がマテリアルも豊富で注目されがちであるが、それ以前のウイングスに関しては、資料やマテリアルの少なさから今まで軽視されがちであった。
1970年代は、同時期のフロイドやツェッペリンなどはステージの視覚効果やインプロを駆使した前衛的なステージを行なっており、ロックは新たな領域に入った転換期でもある。それまでビートルズ時代に短い曲を10数曲、30分あまりのステージを行なっていたポールにとって、まさに大きな時代の変化であったろう。確かに無名ミュージシャンで組んだバンド、しかもキーボードはそれまで音楽経験のない素人である。司会者のアナウンスと共に緞帳がスルスルと上がるステージは、いくらポールであっても時代の潮流に乗り切れていない部分が感じられる。60年代末期からロック界に影響を及ぼしたブルースは、それぞれの音楽性の根底にあったとしても、時代は短期間のうちにハードロックへと聴衆の趣向は移行していった。ギタリストがヘンリーからジミーに代わってからようやくウイングスが時代に追いついたのは、そのような流行の変遷があったからであろう。そのような時代の変化に取り残されたかのように、1972年のウイングスのステージは、ブルース色の強いものであった。
AKBを始めとする女性アイドル・グループのファンは、まだ無名のアイドルを発掘し、アイドルがどんどん大きくなっていく過程を楽しむ、その成長過程に自分も参加し、寄与できることが楽しいという。まさに初期ウイングスの魅力もまた、そのような感覚なのではないか。音楽的素養のなかったリンダにポール自身がゼロからレッスンを施した。「その気になれば、ビリープレストンに頼んでもいいんだぞ!」とリンダを叱責したという。ポールほどの名前があれば、有名ミュージシャンを揃えてバンドを結成することも可能であったろう。しかしポールは敢えてそのような安易な道を選ばなかった。サプライズで大学をまわりライブをやり、素人然としたバンドを時間をかけて育てる道を歩んだのである。成長過程における初期の段階、1976年を頂点として70年代を駆け抜けたポールの新しいバンドの胎動、それが立ち上げメンバーによるウイングスの魅力であると言える。
1972年ウイングスは公式アナウンスの元、欧州ツアーに出る。この時点でアルバムはまだ『WINGS WILD LIFE』のみ。よってソロアルバムの曲、カバー曲、さらに未発表の次のアルバムの曲と、持ち歌の少なさからセットリストを埋めるのに苦労があったろうが、約1時間半のフル・ステージを行なった。新しいバンドが始動したばかりなため、あえてプレスの批評の厳しい英国を避けたのもバンドに自信をつけさせるための策であった。ツアーは1972年の7月と8月の2期にわけて行なわれた。その間、セットリストはほぼ固定されていたものの、ツアー前半が「Bip Bop」がオープニングナンバー、後半が「Eat At Home」と変化がある。また流出している音源では「Cotton Fields」なども確認出来、その全貌は記録の少なさから不明な部分が多い。これもひとえに残されている音源の少なさ、さらに当時のツアーの記録や記事の少なさが原因であるが、それでも残されている数少ない音源からある程度の推測が可能である。本作は、そのような数少ない1972年欧州ツアーの音源より、1972年8月20日アムステルダム公演を収録している。「I Am Your Singer」でリフレインがつくなど、他の公演では見られない珍しいアレンジを聴くことが出来る。美しいピクチャー・ディスク仕様の永久保存がっちりプレス盤。日本語帯付。
CONCERTGEBOUW AMSTERDAM, NETHERLANDS August 20, 1972
DISC ONE
01. Introduction
02. Eat At Home
03. Smile Away
04. Bip Bop
05. Mumbo
06. 1882
07. I Would Only Smile
08. Give Ireland Back To The Irish
09. Blue Moon Of Kentucky
10. The Mess
11. Best Friend
12. Soily
13. I Am Your Singer
14. Henry's Blues
15. Say You Don't Mind
16. Seaside Woman
17. Wild Life
18. My Love
19. Mary Had A Little Lamb
DISC TWO
01. Maybe I'm Amazed
02. Hi, Hi, Hi
03. Long Tall Sally
THE BRUCE McMOUSE SHOW SOUNDTRACK
SOUNDBOARD RECORDING
04. Big Barn Bed
05. Eat At Home
06. Bip Bop
07. The Mess
08. Wild Life
09. Mary Had A Little Lamb
10. Blue Moon Of Kentucky
11. I Am Your Singer
12. Seaside Woman
13. My Love
14. Maybe I’m Amazed
15. Hi Hi Hi
16. Long Tall Sally